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連載コラム 『医者の独り言』(神保 実)

第49回 浜千鳥

 「浜千鳥」という言葉を、口の中で繰り返し言ってもらいたい。ある英語に近づいてくるはずだ。適当にアクセントを付けて繰り返していると、「how much dollar」になってくると思うが、いかがだろうか。

 幕末の庶民は、こうやって英語を覚えたらしい。幕末に、日本にやってきた外国人というと、黒船を率いたペリー提督とか、パークス英国公使を思い浮かべるが、このようなVIPだけではない。

 開港とともに、多くの外国商人がやってきた。中には、一獲千金を夢見る食い詰め者や、詐欺師まがいの商人もいたようだ。

 彼等は、例えば横浜村に店を開いて、商売しようとする。日本人の方も好奇心旺盛だが、英語を知らない。「それはいくらだ」と聞けない。物知りがいて「ハウ マッチ ドルというのだ」と教えても、耳慣れない言葉で覚えにくい。それなら「浜千鳥」と覚えておけばよい、というわけである。

 年配の方、それもかなり年配の方なら、昔、ロシアのことを「オロシヤ」と呼んでいたことを覚えておられるだろう。「オ」を付けたからと言って、別にロシアを尊敬していたわけではない。

 「Russia」の「r」の発音は、舌を丸めるようにして発音するため、日本人には難しい。どうしても「オ」が付いたように聞こえるので「オロシヤ」となったようである。

 幕末には、もちろん英語教育などなかった。人々は、耳学問で覚えるしかなかった。しかし、案外正確に発音をとらえていたような気がする。

 最近の若い歌手には、日本語の歌詞でも、たどたどしく、舌足らずに歌うのがいるが、あの調子で「浜千鳥」といえば、案外外国人に通じるかもしれない。

 明治時代になって、教育制度が整備されてくると、日本の英語は読む英語に変わってしまった。東洋の島国で、遠く欧米から文化を取り入れようとすれば、まず、外国の文献を読めることが必須条件にある。その意味では、やむを得ざる事情だったといえるかも知れない。

 しかし、読めれば、話せるわけではない。私自身、中学、高校と英語を学びながら、英会話はできなかった。

 国際化の時代である。英語は、今や世界の共通語になっている。日本に来る外国人は、今後、ますます増えるということである。

 先人が「オロシヤ」といったような苦労はないかもしれないが、「sank you bely much」ではまずいのではあるまいか。                                          

(1993年)

 

 

ドクター神保はこんな人

 江戸っ子の神保実先生はむろん東京生まれ。穏やかな顔と恰幅のある風貌は医者らしくない。しかし、しいて言えば、外科系であることが一目で分かる。竹を割ったような性格がそれを示している。
 東大医学部を卒業後、脳外科一筋に東大助手、名門虎ノ門病院を経て、東京女子医大に移り脳神経外科の教授となられた。数年前に退官され、現在は悠々自適の生活をおくられている。

 

公開にあたって
 今の世の中、評論家や随筆家が氾濫して色々と喧しいことこの上ありませんが、その発言になんとなく重みというか信頼性に欠けることが多いのではないでしょうか。
 そんな中にあって、その道を極めた人の言葉にはなぜか耳を傾けたくなるものです。特に医者という職業は人間の生き様を垣間見る職業ですから、なおさらでしょう。平成14年の秋、神保先生は10年にわたって書き綴ったコラムを一冊の本にまとめられました。

 名付けて「医者の独り言」。
 内容がユニークなことと、本の随所に載せられている「成田一徹氏の切り絵」が素晴らしく、ただ本にしておくだけでは勿体ないので弊社のホームページで紹介させていただくことになりました。

 

バックナンバー
第1回 刺激過剰時代
第2回 寿命と食事
第3回 定年後
第4回 医療の演技
第5回 女性の腕力
第6回 脳動脈瘤と運命
第7回 チャンポン言語
第8回 住宅の広さ
第9回 医者の尊大さ
第10回 女医への偏見
第11回 セクシュアル・ハラスメント
第12回 浮浪者の墨絵
第13回 西郷隆盛の皮袋
第14回 健康ドリンク
第15回 病気の経過
第16回 切腹
第17回 21世紀の医学
第18回 取り越し苦労
第19回 脳死の判定
第20回 私の健康法
第21回 エガス・モニスの業績
第22回 脳卒中と失語症
第23回 酒・たばこの害
第24回 忍耐心の涵養
第25回 脳外科医は短命
第26回 脳外科の将来
第27回 酒・たばこの効用
第28回 テニオハ英語
第29回 生体臓器移植
第30回 医者たるものは……
第31回 湾岸戦争偶感
第32回 脚気
第33回 脳死と臓器移植
第34回 シベリア紀行(1)車外の風景
第35回 シベリア紀行(2)車内の生活
第36回 シベリア紀行(3)広さについて
第37回 原稿執筆
第38回 内科医と外科医
第39回 医者の教養
第40回 魚雷の話
第41回 栄養の話
第42回 地球温暖化
第43回 尊厳死
第44回 過労死

第45回 理想的な健康法
第46回 車いすと住宅
第47回 医者の味覚
第48回 バビンスキー反応


 

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